「産後パパ育休で手取り10割」「育休は最長2年」——制度の話は、年々手厚くなっています。
ただ、その話をしていると、必ずこう言われます。
「うちは自営業だから、関係ないよね」
私自身も小さな会社をやっているので、この感覚はよく分かります。育休を取れと言われても、代われる人がいません。
先に、いちばん大事なことをお伝えします。
制度は、ずっと「無い」ままでした。ただし2026年10月から、ひとつ増えます。
そのうえで、増えてもなお埋まらない部分があります。順に整理します。
結論:立場によって、まったく違う
- 育児休業給付金は使えません。⚠️ 理由は「自営業だから」ではなく、雇用保険に入っていないからです
- 2026年10月から、国民年金保険料の育児免除が始まります。子が1歳になるまで。父母どちらも対象で、所得制限なし、しかも将来の年金は減りません
- 出産育児一時金(50万円)は、国保でも健保でも出ます。ここは立場を問いません
- ⚠️ 国民健康保険に出産手当金はありません。法律上は「任意給付」ですが、実施している市区町村がありません
- ⚠️ 法人の役員は、いちばん谷間にいます。産休の保険料免除は受けられますが、育休の免除は受けられません
なぜ使えないのか:「自営業だから」ではありません
育児休業給付金は、雇用保険の制度です。
だから条件は「会社員かどうか」ではなく、雇用保険の被保険者かどうか。
- 個人事業主・フリーランス — 雇用保険に入る仕組みがない → 対象外
- 法人の役員 — 労働者ではないので、原則として雇用保険に入れない → 対象外
⚠️ ここを取り違えると、話がずれます。「法人にしたから使える」わけではありません。 役員報酬をもらっていても、雇用保険の被保険者でなければ同じです。
そして育児休業そのものも、育児・介護休業法という「労働者」のための法律にもとづく制度です。役員は労働者ではないので、法律上の育児休業を取ることができません。
この一点が、あとの話にずっと効いてきます。
★2026年10月から始まること:国民年金の育児免除
ここが、いま知っておく価値のいちばん高いところです。
令和8年(2026年)10月から、国民年金第1号被保険者に育児免除制度が始まります。
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | 子を養育する国民年金第1号被保険者の実父母・養父母 |
| 期間(実母) | 産前産後免除に続く9か月(合わせて最大13か月) |
| 期間(実父・養父母) | 養育開始から1歳の前月まで、最大12か月 |
| 所得の条件 | なし(所得に関係なく免除) |
| 年金への影響 | 保険料を納めたものとして老齢基礎年金に反映 |
大事な点が3つあります。
① 父母どちらも対象です。 第1号被保険者であれば、夫婦ともに対象になります。
② 所得制限がありません。 よくある「免除」は所得が低い人向けですが、これは違います。
③ 将来の年金が減りません。 通常の保険料免除は年金額が減りますが、この育児免除は納付済みとして扱われます。ここが決定的に違います。
⚠️ 第2号被保険者(会社員・公務員)と第3号被保険者(扶養に入っている配偶者)は対象外です。これは会社員側にすでに別の免除があるためです。
⚠️ そして法人の役員は第2号被保険者なので、この新制度の対象にもなりません。
日本年金機構「令和8年(2026年)10月から国民年金保険料の育児免除制度が始まります!」 https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/ikujimenjo.html
すでにある制度
新制度の前に、いまも使えるものを整理します。
国民年金の産前産後免除(2019年4月〜)
出産する本人が対象です。出産予定日または出産日の前月から4か月分(多胎は3か月前から6か月分)の国民年金保険料が免除されます。⚠️ こちらも納付済期間として年金額に反映されます。
国民健康保険の産前産後免除(2024年1月〜)
同じく出産する本人が対象で、4か月分(多胎は6か月分)の国民健康保険料が免除されます。
⚠️ 母子健康手帳の交付や出生届で市区町村が把握し、申請不要な場合があります。 逆に、申請が要る自治体もあります。お住まいの市区町村で確認してください。
出産育児一時金(50万円)
加入している健康保険の種類を問わず支給されます。国保でも、会社の健保でも同じです。→ 出産育児一時金は50万円
⚠️ 出産手当金は、国保にはありません
会社の健康保険には、産休中の収入を補う出産手当金があります。国民健康保険には、これがありません。
法律上は「任意給付」——市区町村が条例で定めれば実施できる、という位置づけです。⚠️ ただし実施している市区町村はありません。
「制度としては存在するが、誰も使えない」。ここが、自営業の産休がいちばん厳しいところです。
⚠️ 法人の役員は、二重に谷間にいます
私自身がここに当たるので、はっきり書きます。
| 個人事業主・フリーランス | 法人の役員 | 会社員 | |
|---|---|---|---|
| 育児休業給付金 | ✗ | ✗ | ○ |
| 2026年10月〜の国民年金育児免除 | ○ | ✗(第2号のため) | ✗ |
| 産休中の社会保険料免除 | —(国民年金・国保の免除あり) | ○ | ○ |
| 育休中の社会保険料免除 | — | ✗ | ○ |
| 出産手当金 | ✗ | ○ | ○ |
| 出産育児一時金 | ○ | ○ | ○ |
役員だけ、✗が2つ並ぶ列があります。
なぜ産休は免除されて、育休は免除されないのか
条文の書き方が違うためです。
- 産前産後休業の保険料免除 — 「妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間」が条件。誰が、という限定がありません。だから役員でも、実際に休めば対象になり得ます
- 育児休業等の保険料免除 — 「育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業等期間」が条件。⚠️ 育児・介護休業法は労働者の法律なので、役員は該当しません
「休んでいるかどうか」ではなく、「法律上の育児休業かどうか」で決まっている。 ここが役員にとっての壁です。
日本年金機構「厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/20140122-01.html / 日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」 https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20180810.html
では、みんなどうしているのか
制度で埋まらない部分は、結局それぞれが工夫しています。実際によく取られている形を挙げます。
① 完全に休まず、量を落とす
いちばん多い形です。休むか働くかの二択にしない。
「産後2か月は新規案件を受けない」「午前中だけ動く」「月の稼働を半分にする」など、ゼロにしないことで取引先との関係を保ちます。会社員の育休のような一斉停止ができないぶん、こうなります。
② 先に貯めておく
給付が無いので、休む分は自分で用意するしかありません。
⚠️ 見落としやすいのは、収入が止まっても社会保険料・税金の請求は続くことです。国民年金・国保は上の免除で軽くなりますが、住民税や所得税の予定納税は前年の所得に対してかかります。休んだ年ほど重く感じます。
③ 配偶者の扶養に一時的に入る
収入を大きく落とす場合、配偶者が会社員なら扶養に入る選択肢があります。⚠️ 年収の条件があるので、事業をどこまで縮めるかとセットで考える話になります。
④ 業務を「渡せる形」にしておく
これは出産前にしかできない準備です。自分しか知らない仕事を減らしておく。 引き継ぎ資料、外注先など——休むためというより、休めるようにするための前準備です。
⑤ 取引先に、早めに言う
黙って消えるのがいちばん困ります。時期と、動ける範囲を先に伝えておく。 制度で守られない立場ほど、ここが実質的なセーフティネットになります。
ここは、ふたりで決めたほうがいい部分です。 どちらがどれだけ稼働を落とすかは、家庭の収支そのものだからです。
経営者として:従業員が育休を取るときの助成金
⚠️ これは「自分が育休を取るためのお金」ではありません。 混同されやすいので分けて書きます。
中小企業の事業主が、従業員(雇用保険の被保険者)が育休を取れる環境を整えた場合に受け取れる助成金があります。両立支援等助成金といいます。
- 男性従業員が育休を取ったとき
- 育休を取った人の業務を代わりに担った人へ手当を出したとき
- 代替要員を新しく雇ったとき
⚠️ 支給額と要件は年度ごとに変わります。 ここに金額を書くとすぐ古くなるので、厚生労働省のページか、本社所在地を管轄する都道府県労働局で最新のものを確認してください。
小さい会社ほど「一人抜けると回らない」ので使いにくく見えますが、代替の人件費を見てくれる枠があるというのは知っておいて損がありません。
厚生労働省「両立支援等助成金」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
よくある質問
Q. 法人にすれば育児休業給付金をもらえますか?
A. もらえません。⚠️ 役員は原則として雇用保険の被保険者にならないためです。
Q. 役員報酬を下げれば社会保険料は減りますか?
A. 役員報酬は原則として期の途中で自由に変えられません(変えると税務上の扱いが変わります)。⚠️ 顧問税理士に必ず確認してください。
Q. 2026年10月より前に生まれた子でも、育児免除は使えますか?
A. 制度の開始は令和8年10月です。⚠️ 開始時点で1歳未満の子がいる場合の扱いは、日本年金機構の案内で確認してください。
Q. 夫が会社員、妻がフリーランスです。両方使えますか?
A. それぞれの立場の制度が使えます。夫は育児休業給付金と社会保険料免除、妻は国民年金・国保の産前産後免除と、2026年10月からの育児免除です。→ 産後パパ育休は「手取り10割」になる?
Q. 保育園の入園に不利になりませんか?
A. ⚠️ 自営業は就労状況の証明方法が会社員と異なります。自治体によって扱いが違うので、早めに窓口で確認してください。
まとめ
- 育児休業給付金が使えないのは「自営業だから」ではなく、雇用保険の被保険者でないから
- ★2026年10月から、国民年金第1号の育児免除が始まります。子が1歳まで・父母どちらも・所得制限なし・年金は減りません
- 出産育児一時金は立場を問わず出ます
- ⚠️ 国保に出産手当金はありません(任意給付で、実施市区町村なし)
- ⚠️ 法人の役員は、育休給付も新しい育児免除も対象外。産休の保険料免除だけが使えます
- 制度で埋まらない部分は、量を落とす・先に貯める・扶養・引き継ぎ・早めの共有で埋めているのが実情です
制度は少しずつ動いています。ただ、いまの時点では「休める人」と「休めない人」の差が、まだはっきり残っています。
そのうえで言えるのは、休めないなりに、減らせる部分はあるということです。使える免除を取りこぼさないだけでも、負担は変わります。
この記事について
文=やすぴ(イクジヒロバ 運営者)。制度の内容は日本年金機構・厚生労働省の公表資料をもとに記載しています。⚠️ 個別の要件・金額・手続きは、お住まいの市区町村、年金事務所、都道府県労働局、顧問税理士にご確認ください。運営者のプロフィールは運営者情報をご覧ください。


