高額療養費は出産や赤ちゃんの入院に使える?対象になる費用とならない費用

ダイニングテーブルに置かれた病院の領収書の束と電卓、ノート、畳んだベビー服 手続き・お金
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結論:知らないと失うもの

医療費が高額になったとき、自己負担に上限を設けて超えた分を戻してくれるのが「高額療養費」です。ただ、出産や赤ちゃんの入院にまつわる費用は、戻ってくるものと、はじめから対象外のものが混ざっています。ここを取り違えたまま「うちは関係ない」と判断してしまうと、本来戻るはずのお金がそのままになります。

⚠️ そして高額療養費は、多くの場合こちらから申請しないと戻りません。ただ、これは今すぐ動かないと消える話ではありません。あとからでも手続きできる期間が法律で決められています。赤ちゃんが入院中で、それどころではないという方は、落ち着いてからで大丈夫です。この記事は、その「落ち着いたとき」に読み返せるように書きました。

高額療養費が使えるかは「健康保険が効く治療か」で決まる

判断の軸はひとつだけです。健康保険が効く治療(保険診療)かどうか

健康保険法は、こう定めています。

被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う— 健康保険法 第63条第1項

つまり保険が使えるのは、病気やけがの治療に対してです。高額療養費も、この保険が効いた分の自己負担が重くなりすぎないようにする仕組みなので、⚠️ 保険が効かない費用は、いくら高くても高額療養費では戻りません。

この一本の線を引いておくと、この先の話がぐっと分かりやすくなります。

そもそも高額療養費とは

1か月の自己負担に上限を設ける仕組み

高額療養費は健康保険法に定めがあり、具体的な金額は政令(健康保険法施行令)で決まっています。

高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は…政令で定める— 健康保険法 第115条第2項

70歳未満の場合、1か月(月初〜月末)の自己負担の上限は、加入者本人の標準報酬月額によって次のように分かれます。★所得区分は「年収」ではなく標準報酬月額で決まる、というのが法律上の建てつけです。年収は、あくまでおおよその目安として説明されているものです。

標準報酬月額1か月の上限額多数回該当のとき
83万円以上270,300円+(医療費−901,000円)×1%140,100円
53万円以上83万円未満179,100円+(医療費−597,000円)×1%93,000円
28万円以上53万円未満85,800円+(医療費−286,000円)×1%44,400円
28万円未満61,500円44,400円
市町村民税非課税の方など36,900円24,600円

(健康保険法施行令 第42条第1項。令和8年8月診療分からの額です)

⚠️ この表は健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)のものです。国民健康保険や後期高齢者医療は根拠となる政令が別なので、ご加入の保険者にご確認ください。

⚠️ また、上限を超えなければ支給はありません。「入院したから必ず戻る」ではなく、「その月の自己負担が自分の区分の上限を超えたら、超えた分が戻る」という仕組みです。

★令和8年8月から「年間の上限」も新設された

ここは新しい話で、まだ触れている情報が少ないところです。厚生労働省はこう書いています。

さらに、令和8年7月までの制度では、月単位の上限額となっていますが、令和8年8月からは新たに年単位の上限額を設ける「年間上限」が設けられ、長期療養者などの負担が更に軽減されるケースもあります。— 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

この「年」は、1月から12月ではありません。法令にはっきり書かれています。

計算期間(毎年八月一日から翌年七月三十一日までの期間をいう。以下同じ。)— 健康保険法施行令 第41条の2第1項

年間上限の額は次のとおりです(健康保険法施行令 第42条)。

標準報酬月額1年(8月〜翌年7月)の上限額
83万円以上168万円
53万円以上83万円未満111万円
上記以外53万円
市町村民税非課税の方など29万円

★月ごとの高額療養費で戻った分を差し引いたうえで、残りの自己負担をこの1年間で積み上げ、年間の上限を超えた分がさらに戻る、という重ね方になります(健康保険法施行令 第41条の3)。入院と通院が何か月も続いた家庭ほど効いてくる仕組みです。

なお厚生労働省は、⚠️ 令和9年8月からは所得区分をさらに細かく分ける見直しも予定していると案内しています。金額を確かめるときは、必ずその時点の厚生労働省のページを見てください。

出産で高額療養費は使える?

正常分娩は健康保険が効かないので対象外

トラブルなく進んだ出産(正常分娩)は、病気やけがの治療ではありません。そのため健康保険法第63条第1項でいう「療養の給付」の対象にならず、費用は保険が効かない扱いになります。⚠️ 保険が効かない以上、高額療養費でも戻りません。

そのかわりに用意されているのが出産育児一時金です。

被保険者が出産したときは、出産育児一時金として、政令で定める金額を支給する— 健康保険法 第101条

金額や受け取り方は出産育児一時金は50万円にまとめています。

帝王切開・切迫早産などの入院は対象になる

一方、帝王切開の手術や、切迫早産などで治療のために入院した分は保険診療です。窓口で3割を負担し、その負担が1か月の上限額を超えていれば、超えた分が高額療養費として戻ります。

⚠️ ただし「帝王切開なら必ず戻る」とは言えません。上限額は上の表のとおり所得区分で違い、上限を超えていなければ支給はないからです。

⚠️ もうひとつ大事なのが、同じ入院でも保険が効く部分と効かない部分が混ざることです。

  • 差額ベッド代(希望して個室などに入ったときの室料)… 健康保険が効かない「選定療養」にあたるため対象外(健康保険法 第63条第2項第5号)
  • 入院中の食事代… 法律で高額療養費の計算からはっきり外されています。健康保険法第115条第1項は「食事療養及び生活療養を除く」と書いています
  • 文書料(診断書などの発行代)… 保険給付ではないため対象外
  • 正常分娩にあたる部分の費用… 上のとおり対象外

⚠️ 領収書の合計額ではなく、保険が効いた分の自己負担だけで上限と比べる、と覚えておいてください。

出産育児一時金・出産手当金との違い

名前が似ていて混ざりやすいので、整理しておきます。

制度何に対するお金か
高額療養費保険が効いた治療の自己負担が、月(または年)の上限を超えたとき、超えた分が戻る
出産育児一時金出産したときに支給される(健康保険法 第101条)
出産手当金産前産後に仕事を休んだときの所得の支え

★この3つは目的が違うので、条件を満たせば重ねて受けられます。出産手当金は出産手当金はいくら?を、確定申告で医療費を精算する話は出産の医療費控除をどうぞ。

赤ちゃんの入院で高額療養費は使える?

赤ちゃん自身も健康保険に入っていることが前提

赤ちゃんの入院でも考え方は同じで、保険が効く治療なら高額療養費の対象です。ただし前提として、⚠️ 赤ちゃん自身が健康保険に入っていることが必要です。生まれたばかりの赤ちゃんは、親の健康保険の被扶養者にする手続きをして、はじめて保険証(資格情報)が使えるようになります。手続きは赤ちゃんの健康保険はどっちの扶養に入れる?にまとめました。

上限額の区分は、赤ちゃん本人ではなく扶養している方(被保険者)の標準報酬月額で決まります(健康保険法施行令 第42条第1項)。

★同じ健康保険に入っている家族の分は合算できます。70歳未満では、同じ月に、同じ医療機関などで、自己負担が21,000円以上になったものが合算の対象です(健康保険法施行令 第41条第1項)。ママの入院と赤ちゃんの入院が重なった月は、ここで届くことがあります。

⚠️ 合算できるのは同じ保険者に加入している人どうしです。共働きでそれぞれ別の健康保険に入っている場合は、扱いが変わります。ご加入の保険者で確認してください。

⚠️ その前に確認したい2つの制度

赤ちゃんの入院では、高額療養費より先に効いてくる制度があります。

ひとつめは乳幼児医療費助成(子ども医療費助成)です。子どもの医療費の自己負担を自治体が助成するもので、⚠️ 対象年齢・所得制限・自己負担の有無は自治体ごとにまったく違います。この記事では断定できません。窓口負担がほとんどかからない地域もあり、その場合は高額療養費の出番自体がないこともあります。まずはお住まいの市区町村で確認してください。制度の見方は乳幼児医療費助成の申請にまとめています。

ふたつめは未熟児養育医療給付です。こちらは母子保健法に定めがあります。

市町村は、養育のため病院又は診療所に入院することを必要とする未熟児に対し、その養育に必要な医療(以下「養育医療」という。)の給付を行い、又はこれに代えて養育医療に要する費用を支給することができる— 母子保健法 第20条第1項

⚠️ 実施するのは市町村で、申請の窓口や必要書類は自治体ごとに違います。該当しそうなときは、病院のソーシャルワーカーや自治体の窓口に相談してください。詳しくは未熟児養育医療給付へ。

★高額療養費・自治体の助成・養育医療は、どれを先に使うか、どう組み合わさるかが⚠️ 自治体と保険者で扱いが違います全部を自分で判断しようとしなくて大丈夫です。「この3つがあるらしい」とだけ持って、窓口で聞くのがいちばん早いです。

申請のしかた

事前に出す場合(限度額適用認定証・マイナ保険証)

入院がわかっている場合は、窓口での支払い自体を上限額までにする方法があります。厚生労働省はこう案内しています。

この取扱いを受けるには、マイナ保険証をご利用いただくか、事前に「限度額適用認定証(認定証)」を入手していただく必要があります。— 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

認定証の交付手続きは、加入している健康保険組合・協会けんぽ・市区町村(国民健康保険・後期高齢者医療制度)などが窓口です。⚠️ 手続きは本人(または法定代理人)が行います。

あとから申請する場合

認定証が間に合わなかったときも、あとから申請すれば戻ります。窓口でいったん3割を払っていても大丈夫です。申請先は加入している保険者で、健康保険組合や協会けんぽでは、支給に該当したときにお知らせや申請書が届くこともあります。まずは保険証(または資格情報)に書かれている保険者名を確認して、そこに問い合わせるのが確実です。

★入院中は、領収書を捨てずに月ごとにまとめておくだけで十分です。あとの手続きがかなり楽になります。

⚠️ 申請できる期間には限りがある

ここだけは押さえておいてください。健康保険には時効の定めがあります。

保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する— 健康保険法 第193条第1項

つまり2年という区切りがあります。★逆に言えば、2年のあいだは間に合うということです。いま手続きできる状態でなくても、慌てなくて大丈夫です。⚠️ 国民健康保険などほかの制度にも期限があります。起算日の考え方を含め、ご加入の保険者で確認してください。

世帯で合算できる場合・多数回該当

世帯合算は先に触れたとおり、同じ保険者に加入している家族の自己負担を、同じ月で合算する仕組みです。70歳未満は21,000円以上の負担が対象になります。

多数回該当は、直近12か月のあいだに高額療養費に該当した月が3か月以上あるとき、⚠️ 4か月目からは上限額がさらに下がる仕組みです(健康保険法施行令 第42条)。金額は最初の表の右列のとおりです。入院が長引いたり、通院が続いたりする家庭を支えるための仕組みです。

そのうえで、令和8年8月から始まった年間上限が重なります。★月・多数回・年間の三段構えだと思ってください。

よくある質問

Q. 帝王切開でした。必ず高額療養費が戻りますか。

A. ⚠️ 必ずとは言えません。保険が効いた分の自己負担が、ご自身の区分の上限額を超えていれば戻ります。差額ベッド代・食事代・文書料などは計算に入りません。

Q. 医療費が100万円かかると、いくら戻りますか。

A. 一例として、標準報酬月額28万円以上53万円未満の方が、1か月の保険診療の医療費100万円(窓口3割で30万円)だった場合、上限額は 85,800円+(1,000,000円−286,000円)×1%=92,940円。差額の207,060円が高額療養費の対象になります。⚠️ これは令和8年8月診療分の上限額で計算した一例です。ご自身の区分と実際の医療費で計算し直してください。

Q. 出産育児一時金をもらったら、高額療養費は使えませんか。

A. 目的が違う制度なので、条件を満たせば両方受けられます。

Q. 赤ちゃんの分とママの分は合算できますか。

A. 同じ健康保険に加入していれば、同じ月の自己負担を合算できます(70歳未満は21,000円以上のものが対象)。

Q. 年間上限は自動で戻りますか。

A. ⚠️ 取り扱いは保険者によって異なります。計算期間(8月1日〜翌年7月31日)が終わったあとの手続きになるので、ご加入の保険者に確認してください。

この記事のまとめ

  • 高額療養費が使えるかは、健康保険が効く治療かどうかで決まる
  • 正常分娩は保険が効かないので対象外。かわりに出産育児一時金がある
  • 帝王切開や切迫早産などの入院は保険診療なので対象。⚠️ ただし上限を超えなければ支給はない
  • ⚠️ 差額ベッド代・食事代・文書料は対象外。領収書の合計額で判断しない
  • 赤ちゃんの入院は、赤ちゃん自身の健康保険の手続きが前提。上限額の区分は扶養している方の標準報酬月額で決まる
  • ⚠️ 赤ちゃんの医療費は、乳幼児医療費助成と未熟児養育医療給付を先に確認する。内容は自治体でまったく違う
  • 令和8年8月から年間上限(8月〜翌年7月)が新設。53万円/111万円/168万円/29万円
  • 2年という期限はあるが、★逆に言えば2年は間に合う。落ち着いてからで大丈夫です

金額や区分は見直されることがあります。実際に手続きする前に、厚生労働省のページと、ご加入の保険者・お住まいの市区町村で最新の内容を確認してください。

この記事について

この記事はイクジヒロバが公開したものです。運営:やすぴ。内容は健康保険法・健康保険法施行令・母子保健法および厚生労働省の公表情報にもとづいて記載しています。⚠️ 上限額は見直されることがあり、ご加入の保険者や自治体の制度によって扱いが異なります。 必ず最新の情報をご確認ください。運営者・監修者のプロフィールは運営者情報をご覧ください。

📚 この記事を書くために参考にした情報
厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
📚 この記事を書くために参考にした情報
e-Gov法令検索「健康保険法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/215IO0000000243
📚 この記事を書くために参考にした情報
e-Gov法令検索「健康保険法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
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